魔法少女リリカルなのはstrikers 序:空に翔る橋 (1−5)
今回からこちらに前置きを。
ええっとこの話は全く非公式、妄想です。個人的に間を埋めるならこんな感じになるかなあと考えて書いてみました。ただそれだけなのですが。
多少本編とズレがあると思います。時間軸とかのズレが結構起きています
原作大好きなので、なるべくは元のキャラに近づけているつもりなのですが
すみません。あんまり書くことないです。
今回載せたところで、今の時点で書いたところの4分の1ほどを掲載したことになります。
第1章も折り返し地点といったところ。
あたしと彼女を隔てる一枚のガラス。
その向こうに彼女は眠っている。点滴をはじめとする様々な管が彼女から伸びている。彼女の上体は包帯や左腕を固定するギブス、三角巾によって、所々が白くなっている。
あたしはじっとその光景を見ながら立っていた。バリアジャケットは解除した。今着ているのは本局武装局員用の制服だ。
ガラスに右手を付き、呼びかけてみる。
「なのは」
返事はない。当然だ。なのははそもそも目覚めていない。そして、ガラスに隔たれているために、あたしの声はなのはに届かない。
右側、病院の廊下の向こうから足音が聞こえる。誰かが来るみたいだ。
「ヴィータ」
出された声はいつもと変わらず、女性らしさを残しつつも落ち着いた、少し低いものだった。その女性はゆっくりとこちらへ歩いてきていた。
「シグナム」
あたしはいつもと変わらない声で返事をした。シグナムはあたしの右横で停まり、なのはの眠っているICUへと視線を向けた。
「様子はどうだ」
「さっき説明した時から変化はない」
なのはの外傷は左上腕骨骨折、左橈骨骨折、左尺骨骨折、左手首骨折、右後頭部骨折、左肋骨の骨折、右わき腹の裂傷、首の捻挫といった多数の部分に及ぶものだった。内部では、肝臓や膵臓、胃にダメージが認められたが、致命的なものは何とか回避されていたとのことだった。リンカーコアにも大きなダメージを負っており、リンカーコアが修復するまでは最低1ヶ月以上は必要とのことだった。かなりの重症であり、特に頭部の骨折が重大であったが、幸い命に別状があるものでも、後に身体的な麻痺が残るものでもなかった。きちんとしたリハビリをすれば、日常生活を送るのに問題はないとのことだった。
「そうか」
シグナムは直立した体勢で、じっとなのはを見ていた。少し目線を横にずらして見たところ、その表情は変わってはいなかった。
「先ほどシャマルから連絡があった。なのはの父上と母君が来られるということだ。本来、部外者がミッドチルダへとやってくることは禁ぜられているが、リンディ提督が特別に手を回して許可を下ろさせたらしい」
「そう……」
なのはの両親が来る。一体どういう気持ちなのだろうか。けれど、生まれた時の記憶も両親も知らず、当然何かを生み育てたことのない私には分からないものだった。
シグナムは更に話を続ける。
「レイジングハートはマリーに渡した。後は任してくれということだ」
「分かった。ありがとうな」
再びなのはの方に戻す。それから何分か分からないが、無言の時間が続いた。あたし達はじっとなのはの方に目を向けていた。
なのはから目を逸らすことは無かった。右手はガラスに付けたままだった。
「シグナム」
あたしは話しかけた。
「どうした」
シグナムはほんの少しの間だけ目線をこちらに向ける。
「あたし達、いやあたしは……甘えていたんじゃないか」
「……ああ」
「あたし達は、この与えられた優しいところにただいるだけで何もしなかったんじゃないか」
「……ああ」
「あたし達は護っていくことを怠っていたんじゃないか」
「……ああ」
「あたし達は守護騎士だった。それなのに……それなのに、あたし達は何もしようとしなかった。何も護ろうとしなかった。なのはが、はやてが、フェイトが……、たくさんの、本当にたくさんの人々があたし達にくれた『居場所』。何処にもいられなかったあたし達がもらった、初めての『居場所』。この場所は永遠に続くものじゃない、変わっていく、みんな変わっていく、変わらないものなんてないんだから。いつかは、何時の日かは無くなってしまうかもしれない。だけど、あたし達は永遠に続くと思っていた輪廻の中に囚われて、そのことを失念していた。あんなに抜け出したかったものだったのに、その中で自分達の意志で留まっていた。そんなことだから、ただ与えられた『居場所』に留まり、居座り、眠り、自分達の持っている場所に対してひたすら不誠実な状態だった。『居場所』に対して、護るという義務を怠っていたんだ……。だから……だから、こんなことになってしまった。分かっていたことだったのに、なのはの調子が悪かったのは分かっていたことだったのに……。なのはに甘えていた。なのはなら大丈夫だって、どんなことでも大丈夫だって、あたしは勝手に決め付けて、放っておいたんだ。そんなことはありえないのに……。あいつも魔法を使わなければ、本当に普通の人間の女の子なのに……」
あたしは謝罪と、反省と、言い訳を積み重ねていた。意味をなんら成さない行為だった。進んでしまった時計は戻すことが出来なくて、起こってしまったことは無くすことはできない。永遠に安住していたあたしが直面した、二度と戻らない現実に対する繕いの言葉をただただ発するだけだった。
いつの間にか両手をベッタリとガラスに付けていた。顔を廊下に向けていた。目からあふれ出る涙は下へ落ち、消えることなく溜まっていた。
「ヴィータ」
シグナムが言う。
「我々は人間じゃない。ただのデータと魔法から構成されている擬似生命体だ。だが、主はやてや多くの人々によって、人となる場と機会を与えられた。それでも本質的に人ではない我々は、これから更に多くの矛盾と出会うこととなる。守護騎士としての常識、人としての常識、この二つには大きな隔たりがあるからだ。この差を少しずつだが埋めていこう。少しずつ前へ進むことだ。人となる場と機会を失わないためにも、我々に場と機会を与えてくれた人々を裏切らないためにも、そして……何よりもこういった出来事を二度と起こさないためにもだ」
下を向いたあたしの目に映るシグナムの左腕から、血が流れていた。あたし達を人間らしく見せるその赤い液体が流れていた。
涙は止まっていた。グッとガラスに当てた両手に力をこめ、あたしは答えた。
「ああ、絶対にだ。二度とこんなことは起こさせない。こんな現実に巡り合うことの無いように、今度は絶対に護ってやる。はやても、フェイトも、そして……なのはも。みんな、みんなだ」
「ああ」
シグナムが頷く。失いたくないものを護る、もう同じ蹉跌は絶対に踏まない。