たまに見る夜明け前の景色

 この前見たときは真っ暗だった。更にその前に見たときはもう明るかった。
 今日と同じ時間、朝に歩いた時の空。
 色が少しずつ変わっていく時間が始まろうとしている。これから太陽が空を徐々に染めていく。新しい色を塗り重ねていく。
 ちょっと歩いてみる。まだ少し寒い。冬の気配が存分に感じられる。
 でも空は、春が来ているのが分かる。ちょっと明るくなっているから。
 日曜日、誰もいない。遠くで車の走る音。近くで自動販売機が動いている音。下で下水道が流れている音。全てがはっきり聞こえる。
 日曜日、誰もいない。朝の空気を吸ってみる。決して体にいいような空気ではない。私の周囲にはそんなきれいなものはない。でも、いつものを考えるとまだ旨いほうなのだろう。週末だから、タバコをかむ人もいない。臭いが鼻孔を通じて感じられることは無い。平日の朝、誰にも怒られない路上で、紫煙を燻らし会社へ向かうのも悪くはない。だけど、その臭いは、昼間や夜よりもこちらには鋭敏に感じられてしまう。それは、朝だから。朝の空気がそうさせてしまうから。やはり、個人的にはあんまり好ましくないのである。
 家に帰って、門扉の取っ手を握る。冷たい。だが、心地よい。


 少し素振りでもしてみよう。バットを取り出して外に出る。
 部活経験のないヘッポコ野球好き。それが私である。
 バッティングセンターで打ち込む金を持っていないので、殆ど素振りだけで過ごしてきた。おかげで素振りだけ出来るという困った人種になってしまったのは言うまでも無い。
 たまに打ってみると、やはり打てないのだ。
 まず、球の見方が分からない。どうやって見て、どんな風に捉えにいくのかが分からない。
 見方が分からないと、どうにかしようと余計に力が入る。力が入って素振りの時の姿勢とは全く違うフォームになる。
 時たま当たることもある。しかし真芯に当たったと思えることはない。捕らえたときの映像をきちんと見たことはないと思う
 やはり、野球は経験のスポーツなのだなと思う。投げられた球を、見て、体を動かし、捉え、はじき返す。この一連の動作は絶え間ない反復練習で身に付けるものなのだろうなと。
 玄関の前で準備運動。
 そして構える。左打席に。振る。少しずつ前に出て行く。
 玄関を通り過ぎると再びもとの位置へ。そして構える。今度は右に。
 両打ちのつもりである。一応だが両方とも振れる。左の方がきれいに振れるが。
 でも効き目は左なので右打ちの方が打ちやすかったりする。
 左打席でイメージするのは広島の前田智徳と言いたいところだが、実際は楽天草野大輔である。現在のフォームは明らかにその影響を受けていると思う。
 右でイメージするのは?リック・ショートと言いたいところである。今、日本プロ野球の打者で一番好きな打者だから。でも、今日振ってみたところ、現西武の江藤に似ている感じの打ち方だと思った。
 振って振って振って振って、戻る。繰り返し繰り返し行う。
 少し汗ばんできただろうか。ゆっくり息を吸い、シャツをパタパタさせ、体に冷えた空気を通す。
 また素振りに戻る。
 空は少しずつ変化している。
 遂に、深い色が消えた。青空だ。今日も晴れている。
 時間が来たので家の中に戻る。
 今日はどのように過ごそうか検討中である。