魔法少女リリカルなのはstrikers 序:空に翔る橋 (1−8)
そんなに長くは無いですが、区切りのいいところで終わらせる方向で。
今回はユーノの出番です。
自分は好きなんですけどね。今一駄目なところとか。
このときのユーノは眼鏡かけているのかなあ。
かけていない方向で考えているのですけども。
この時期ぐらいはまだユーノの信頼感が一番強いんじゃないかな。個人的な感想。
裏方に下がって接触が減ってしまったから。3期では負けムードですけど。
「ユーノ、なのはの親に伝えたいことって何だ」
ヴィータが訊く。
「なのはのことでちょっとあるんです。多分、分かっていると思うんですけど……、一応伝えておいた方がいいかなって」
「そうか」
静かな廊下を歩いていく。病院の奥深くにあるこの区画は、一般の病人が来ることは少ない。来たとしてもそのときには、騒いだり大声を出したりする余裕など持ち合わせてくることは無い。
ただ足音だけが響く。音を立てず歩いているにもかかわらず、その音が聞こえてしまうほどの通路である。
なのはの眠る病室にたどり着くと、そこにはなのはの母、桃子が一人、ICUにいる病人が見える位置に設置してあるベンチに腰掛けていた。
「桃子さん、お久しぶりです」
足音が聞こえなかったのだろうか。彼女は今ヴィータとユーノに気づいたかのように顔を上げた。
「あ、ユーノくんだったかしら。お久しぶりね。それにヴィータちゃんも」
「あたしが暫く付いていることになりました。ところで、士郎さんはもうお帰りになられたのですか」
「そうね、でも私は当分こちらにいられることになったから。リンディさんがそのように取り計らってくれたみたいなの」
「そうですか」
ヴィータは言いながら、ガラスの向こうへ目を向ける。今もなのはは動かずにじっと眠っている。向こうで流れている単調な機械音はガラスを隔てたこちらに届くことは無く、静寂がこの3人の空間を覆っている。
ユーノが歩み出て、そっとガラスへと手を置き、桃子のほうへ顔を向ける。そして、ゆっくりと話し出す。
「昔、いやそんな昔でも無いですね。僕となのはが会ってからまだ2年も経っていないのだから。僕が犯してしまったミスを繕うためになのはが協力してくれるようになって、少し経ったときでした。その時になのはが僕に一度だけ言ってくれたことがあるんです。わたしは一人だったって。勿論、お父さんやお母さん、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるんだけど、そんな中でも自分は一人、なんか良く分からないけど浮いていて寂しかったんだって。学校に行けばアリサちゃんやすずかちゃんと会えるけど、それでもわたしは家に帰るとやっぱり独りだったんだって」
「そう……、なのははそんなことを言っていたの……。あの子は中々弱音を吐こうとしない子だから、私たちもずいぶんと甘えていたのね」
「はい、なのはは強いです。単に魔導士としてではなく、人として、何よりも心が強いです。他人のために尽くそうとする、後悔を残さないために前に進んでいこうとする、その心が強いです。だから、簡単に自分の辛さを、弱さをさらけ出さないのだと思います。周りに心配をかけないという理由の下で。でも、もっと奥、心の奥底はそんなに違わないと思います。同年代の女の子とそんなに違いはないのだと思います。そういった弱さを強固な意志で強く、強く固めて生きてきました。そんな彼女が今回、こういった事になってしまったら、どうなってしまうんだろうと心配しています。そのためにお願いをしに来たんです。もし、あの子が、なのはが自分の奥底に眠らせていたものを出してしまったら、それを受け入れてやって欲しいんです。そういうのはやはり最初に親に向かうものなんだと思います。だから、これから先、起こるかもしれないことをどうかそのまま受け入れて、もう一度前へ進む力を与えてやってください。僕達も協力します。どうか……お願いします」
ユーノが頭を下げる。その頭にすっと手が載せられる。ユーノが目線を上げると、そこには桃子の優しげな顔があった。
「ありがとう、ユーノ君。なのはが思っていたことを伝えてくれて。これからも、これからもなのはと一緒にいてあげてね」
「はい……。勿論です」
ユーノは手の暖かさを頭に感じながら答えた。ヴィータはガラス越しに眠るなのはの姿を見る。そして広げた右手を見る。右手をぎゅっと握り締める。
自分が護るんだ、自分がなのはの背中を護るんだと、ヴィータはその手に力を込めながら思う。
日は傾いていた。だがその様子はここまで届くことは無い。少し薄暗い廊下の中で、3人は明るいICUの光に照らされていた。