魔法少女リリカルなのはstrikers 序:空に翔る橋 (1−6)
今回の前書き
ずっとヴィータのターンです。というか第1章は殆どヴィータのターン。
第2章はなのはのターン(進行中)。第3章はなのはとフェイトのターン(予定)。
第4章は3人(なのフェヴィ)で終りの予定。
3期キャラはあまり出さない方向でやっていたんですが、最低限は出してみることに。周りを固める人たちです。
ステエキは出すのに困る。特にちびっ子二人、この二人は出てこないでしょうね。
んでは、拙いところは多々(大部分)ありますが、今回もお願いします。
それから暫らくして、廊下の反対側から音がした。複数の足音が聞こえていた。
3人、いや4人ぐらいの足音だった。恐らくはなのはの両親が見えられたのだろう。それに医師と看護師が1人ずつといったところだろうか。
あたしは左を向いた。深刻な声が伝わってくる。姿がだんだんと見えてくる。確かになのはの両親だった。
あちら側もあたし達に気づいたみたいだった。こちらに向かって軽く礼をした。あたし達も返し礼をした。しながら思っていた。あたしはどんな顔をすればいいのだろうか、と。
なのはの親はICUの中に入っていった。暫くの間、あたしとシグナム、そしてなのはの三人の空間に戻った。扉の開くのが左目にさっと映りこんだ。目をやると、なのはの両親が付き添いの看護師さんの誘導でベッドへと近づいていくのが見えた
何を喋っているんだろうか。ベッドの横にしゃがみこみ、右手を握りながら、穏やかな表情で優しく語りかける母親の姿、そして同様にしゃがみこみ、眠っているなのはにゆっくり語る父親の姿。聞こえない声に耳を傾け、あたしはじっとその光景を見ていた。
暫しの時間が経って、なのはの両親がICUから出てきた。
なのはの母親、桃子さんがこちらを向いた。あたしと目が合った。
じっとこちらを見ていた。目線を逸らすことはない。彼女は今、どんなことを考えているのだろうか。怒っているのだろうか。悲しんでいるのだろうか。それとももっと他の何かがあるのだろうか。
桃子さんがこちらに近づいてきた。あたしはどんな顔をしているのだろう。何を言われるのだろう。一歩一歩近づくごとに足から頭へと電流が走る気がする。痺れる。神経に大きな刺激が断続的に与えられ、血管が拡張し収縮し、心臓の鼓動が大きくなる。
遂に目の前まで来た。来た。来てしまった。彼女はあたしの前に立った。あたしの顔をじっと見ていた。怖くて、怖くて、目を下に逸らしてしまった。膝が震える。体が震える、そして心が震える。
「ごめん……、いや、申し訳ありませんでした!!」
つまらない、全くつまらない言葉だった。追及される恐怖から逃れるために、守ろうとしなかった自分に対して言い訳をするために、思わず口から出ていた言葉だった。
心の中でどんなに誓ったって、現実に出会うとすぐ挫けてしまう。そんな弱い心から発せられた言葉だ。全く意味は無い。誠意の欠片も残っていない。だけど、こんな言葉をひたすら私は言い続けていた。
「申し訳ありません……、申し訳ありません……、……」
ずっと、ずっと言っていた。何回も、何回も。
そんなあたしの右肩に左手がそっと乗せられた。右肩を見る。
「えっ……」
その薬指には指輪がはまっていた。顔を上げる。そこにはしゃがみこんで、わたしと目を合わせるなのはのお母さんの、桃子さんの顔があった。
「ごめんなさい……。そして、ありがとう」
それは優しい言葉だった。あたしは一瞬何を言われたか分からなかった。この人はなんてことを言ったのだろう。こんなあたしに対してなんて言葉をかけてくれるんだろう。
「どうして……。あたしはそんなことを言われる人間じゃ……」
「違うわ。あなたには本当に感謝してるの」
桃子さんはあたしの目を柔らかに見つめながら告げる。
「なのはの事故はあなたの責任じゃない、あれはわたし達の責任。一番近くにいて、一番一緒にいて、一番見てきたはずのわたし達が気づかなかった。なのはに目を向けてあげなかった。そのせいで、あなたをこんな辛い目に合わせてしまった。本当にごめんなさい、ヴィータちゃん」
「でも……、でも……!!」
あなたの責任じゃない。あなたは普通の人間。魔導士じゃない。あれは単なる肉体的な疲れの蓄積じゃなかった。なのはの能力を低下させたのは魔法も大きく問題だった。それを一般人が見抜くのは難しい。現場にいた、その日立ち会っていたあたしが気づかなかったのが一番の問題です。と言おうとした。
だけど、それを口にする前に、桃子さんはあたしをすっと抱きしめていた。
「えっ」
あたしはこれ以上何もいえなかった。桃子さんが話を続ける。
「そして、ありがとう。あなたがいなかったら、なのはは助からなかった。あなたがきちんと、やるべきことをしてくれたから、今わたし達があの子に会うことが出来たの。やるべきことを怠っていた愚かなわたし達が。だから……、ありがとうね、ヴィータちゃん」
「ありがとう」、この一語があたしの胸を貫いた。一度流して、尽きたんじゃないかと思っていた涙が再びあふれ出てきた。あたしはなのはのお母さんをギュッと抱き、暖かな胸に顔をうずめ、温かな思いを感じながらずっと泣き続けていた。