魔法少女リリカルなのはstrikers 序:空に翔る橋 (1−1)

第1章
 調子が悪いのは明らかだった。
 ヴィータちゃんとあと1人、武装隊の人と一緒にある任務を済ましに行ったときだった。
 その日は少しだけ戦闘があったけど、わたしは明らかに何かが狂っていた。
 魔法の構成、発射シークエンス、タイミング、発射後の復帰、どれもこれもが遅かった。
 それはほんの少しの遅れ、だけどそれは致命的なまでの遅れ。
 わたしはそのことを分かっていた。何かがおかしいって。
 ヴィータちゃんにも気づかれていた。少し遅いんじゃないかって。
 わたしは、「大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから」と強がった。
 ヴィータちゃんは少し心配そうな表情をしたけど、「なのはが言うなら」と言って見逃してくれた。

 
 わたし達は任務が終わっての帰り道、一つの任務を頼まれた。
 それは妙な魔力反応、一瞬の間現れ、直ぐに消えた魔力反応。
 現場へと向かい、手分けをして調べることになった。

 
 「一体何が……」
 そこは瓦礫の山が広がっていた。所々炎が上がっていた。しかし、そこには何も無かった。誰もいなかった。細くしたとされる魔力反応の欠片もそこには残っていなかった。
 「…………!!」
 右わき腹に衝撃が走った。何が起きたのかわからなかった。右手でわき腹を触る。そして触った手の表面を見る。
 血が付いていた。黒いグローブに覆われた部分はよく分からないけど、指先はべっとりと赤くなっていた。
 「master!!」
 わたしはレイジングハートの呼びかけに応じて、後ろを振り返った。もう一撃を加えようとする相手に対し、わたしは鮮紅に染まった右手を突き出す。
 「protection」
 防御陣を展開し、わたしは正面からの攻撃を防ぐ。右わき腹が焼けるように痛む。だけど、そんなことを気にしてはいられなかった。
 「これは……」
 わたしの前にある物体、恐らくは自律行動型の魔導機械だ。それは蜘蛛のように何本もの腕と足を伸ばし、そのうちの1本でわたしに向かって攻撃をしてきていた。
 「!!」
 そいつの腕が防御陣を侵食していた。いや、違う。解除している?どういうこと?
 更に足元の羽が消えた。
 「くっ!!」
 足元に魔力を集中させる。もう一度フィンを展開させる。
 何が、何が起こっているの?分からない。唯一つ理解したのは、こいつに対して防御陣はいつまでも通用しないということだった。
 「このままじゃ……。レイジングハート。いくよ!!」
 「All right」
 右手に展開する障壁に更に魔力を注ぎ込む。魔力壁を大きく、もっと大きく広げるんだ!!
 あいつは恐らく構成した魔力を分解する何らかの力を持っている。その力をこの壁で防ぐ!!
 わたしはレイジングハートを握る左手に力を集中させる。いつもの様に魔法をイメージし、構成する。魔力エネルギーをそこに伝える。
 大丈夫。左手の魔力構成は何とか成功した。これならいける。
 わき腹の痛みが今までで最も大きくなった。気が遠くなりそうなのを堪える。
 腕が今にも右手で展開する防御陣を貫こうとしていた。相手が貫くと同時に左手を突き出し、零距離からの射撃を送り込む。狙いを定め、わたしはその時を待つ。
 来た!!
 わたしはレイジングハートを握った手を敵の正面に出す。
 「アクセル・シューター!!シュート!!」
 魔力弾を放出する。右から左から上から下から無数の魔力球が零距離からそいつに直撃する。
 炸裂。
 機械の腕が、身体が砕け散る。壊れた部位は地面へと落下していく。


 「…………」
 声も出ない。わたしは肩で息をしていた。一度に三つの大掛かりな魔力構成を行った。もしレイジングハートの助けが無かったら……。
 「……!!」
 刹那だった。普段ならば、あれは対応できたはずだった。それにフィンが小さくなっていることに気づいていなければならなかった。まだ、敵の兵力が残っていることを怪しむべきだった。だけど、その時のわたしは動くことが出来なかった。一つのことに気を囚われすぎて、周囲を見る視点を失っていた。
 頭を何か、恐らく腕で強く攻撃された。一瞬、わたしは気を失う。十分すぎる時間を敵に与える。
 腕を突き出してきた。レイジングハートが反応して防御陣を緊急自動展開するも、敵はあの魔力構成を分解する術を使ってきた。防ぎきれない。レイジングハートに直撃する。彼女にひびが入る。
 レイジングハートにエラーが発生。沈黙する。
 残るもう1本の腕がわたしの後頭部に攻撃を加えた。
 直撃だった。
 わたしは完全に気を失い、レイジングハートと共に地面へ落ちていった。